皆ももう大海と杉浦が残ってアタックの練習をしているのは知っている事で、じゃあな~と帰っていく。
「そういや、お兄さんと一緒に帰んなくてよかったのか?」
「いいよ。家に泊まってるんじゃないから」
「え?そうなのか?」
「そう。早くやろ?」
やっぱり杉浦がうずうずしてたらしいのに大海はぷっと笑った。
この時間がいつも楽しい。
杉浦のセッターを独り占めだ。
本当ならこれは日の光を浴びるところで見せる為のプレーなのに。
いつも思う。
もどかしい。悔しい。
それは大海が思う事ではないのは分かっている。
けれどやっぱり思わずにいられない、いつも。
きっと世界一美しいトスだろうと思う。
今日全日本のセッターの中村選手のトスも打たせてもらった。
勿論素晴らしいのは分かる。
それでも杉浦のトスには敵っていないと思ってしまう。
勿論セッターは司令塔であるからトスだけよくてもダメだ。
でもトスだけなら絶対負けてないのに…。
がたがたっと音がして大海は杉浦と顔を合わせた。
なんだろうと二人で首を傾げて音のした方に向かっていくとそこに杉浦のお兄さんと全日本選手2人が風通しをよくするための体育館の下の扉から覗き込んでいたのだった。
「帰ったんじゃなかったんですか?」
「いや、悠待ってたんだけど来ないから…邪魔するつもりはなかったんだけど」
お兄さんが頭をかいていた。
「いえ、別に邪魔ってほどじゃ…。ただ杉浦がしたいだろうなと思って」
「…君、永瀬くん、悠にいつもよくしてくれてるって…。ありがとう。今日全然言う時間もなかったから」
「…いえ」
なんとなく後ろめたくて杉浦の顔を見てしまうけど、杉浦は全然通常通り表情は変わってない。
「君……」
全日本のセッターの中村選手が杉浦を見て逡巡する。
そして首を振った。きっとお兄さんが杉浦の事を話して事情を知っているんだ。
その表情が痛ましさを浮べているのに大海はぐっと拳を握るのに力をこめた。
きっと目が何でもなかったら将来は全日本に、なんて言ってたんだろう。
「永瀬くんは未来のエース候補かな」
お兄さんが軽口で言ったのにほっとする。
「でしょう?」
杉浦も頷いた。
「悠まだ永瀬くんとするのかい?」
「…うん。してく」
「そっか。分かった。じゃあ気をつけろよ」
「大丈夫」
3人が姿を消すのを待った。
いなくなったのを確認して杉浦を抱きしめた。
「永瀬?」
「……ずっといつまでも時間ある時こうして練習しよう?ずっと、だ…」
「…………うん。ありがと」
小さく杉浦が呟いたその声に泣きたくなった。
「俺、強くなっから…」
とんとんと杉浦が大海の腕を叩いた。
「…なるでしょ」
「おう」
「…永瀬が一番だと思ってくれてれば俺、なんでもない、から」
「それは決まってる。だって言ってなんだけど今日中村選手にもトスもらったけど、やっぱ杉浦の方が気持ちよく打てるし」
くすと杉浦が笑った。
杉浦は強い。
母親にいくらか誉められたけどこんな自分はまだまだだと思う。
「杉浦の為にもがんばるっ」
「うん。期待してる」
にっこりと笑みを浮かべられて、さも当然の様に発せられる杉浦の言葉と態度にうっと言葉が詰まってしまう。
「……杉浦、見捨てないでくれよ?」
「は?それないから、って言っただろ」
「…ならいいけど」
くすくすと杉浦が笑っていた。
「ヘンな永瀬。……俺、トレーナーになるんだよ?そしたら試合でもどこでも永瀬にくっ付いて回るけど?永瀬こそ嫌じゃないの?」
「あるわけない!大歓迎だ。だけど……」
「何?」
「いや、杉浦…恐そう……」
「当然でしょう」
くすと顔は笑ってるけど目が笑ってない。
「当然だけど。へぇ…永瀬そんな風に思ってたんだ?」
「え?あ、いや。…基本は可愛いんだけど、な」
「……可愛いっていうのが俺は理解できないよ」
「いや、可愛い。綺麗だし!」
「……永瀬がそう思ってくれてるなら、それでいいけど」
仄かに顔が染ってる。だからそれが可愛いのに。
杉浦は自分じゃ分からないだろう。いや、分かってるのは自分だけでいいんだ。
物音も何もしないのを確かめて素早くキスした。
「永瀬っ」
「だってしたかったんだも~ん」
それでも腕を離さない。
これからもだ。
テーマ : 自作BL小説
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