「高比良さん…?お加減でもよろしくないですか?」
「え?あ、いえ!すみません!大丈夫です」
凪ははっとした。打ち合わせ中だったんだ!
つい見かけた三塚の事を気にして上の空になってしまっていた。
「お疲れになりましたか?」
「いえ、すみません…ちょっと私事で気になる事があっただけなので」
「お疲れの時はわざわざこちらまでいらっしゃらなくとも私の方から伺ってもよろしいので無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」
人のよさそうな親切なイベント会社の男はにこにことしている。
「あ、そういえば変更を一ついいでしょうか?アンコールもリストからの予定でしたけど変えても…?」
「アンコールでしたら構わないと思いますけど…誰の?といってもすみません、私はクラシックはあまり詳しくはないのですが」
男がすまなさそうに謝った。
「あの…桐生 明羅の…」
「あ?明羅くんの?どの曲?」
明羅くん?知り合いか?まぁ、ここはクラシックの企画も充実してるし…ってそういえば二階堂 怜もここだったか…?
「いえ…あの…実は…この間地元の知り合いの店でディナーコンサートとちょっとしたのですが…その時にお見えになってて…曲を…いただいたんです」
「えっ!!!?明羅くんに!?」
「はい。…あの、お知り合い…?」
「明羅クンが高校生の頃から知っている!あ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「?」
凪がこくりと頷くと男が携帯を取り出した。
「あ、もしもし!怜か?明羅くんが曲を高比良さんにって……ああ!今打ち合わせしているんだ。はは!……そう、ウチでするんだ。ああ……分かった、了解」
怜…?もしかして二階堂 怜…?
凪が驚いて目を見開いていると男が笑った。
「怜とは高校の時の同級生なんだ」
「そうなんですか!」
「そう。怜は明羅くんが高比良さんに曲つくったのでへそ曲げてるみたいだけど…高比良さんの事は素晴らしい演奏をするって…」
「そんな!恐れ多い!」
「いや、…あの二人が認めるならもう高比良さんは本物、ってことですよ。CDもいきましょう!やっぱり!」
「え…いや、でも……」
「明羅くんの名前使ってもいいのかな…?これは明羅くんに聞いてみないといけないな…」
「ええと、あの…生方さん…その…本当に…?」
「本当に!あの二人が太鼓判って…俺初めて聞いた。まぁ~…二人とも上辺だけな事なんて言いませんからね」
「……そうなんですか…?」
「そう」
「あ!でも僕のコンサートで桐生さんの名前出されるのは不本意でしょうからいいです!さらっとアンコールのときにいただきました、とか…それ位で…」
無名の凪の名前と並べられたらとんでもない事だ。
「二階堂さんにも申し訳ないし……僕ファンなんだけど…」
「へ?怜の?」
「そうです。ファーストCDの時にたまたまチケット取れて聴きに来ましたよ。それ以降はチケット取れたためしはないですけど…」
「それなら今度はチケットお送りしましょうか?その代わり、高比良さんもこれからのコンサートも是非ウチで!」
「それは勿論…僕でいいなら構いませんけど…」
「高比良さんは全国ツアーとか行かれますか!?怜は絶対いやだ、と言ってしやがんねぇんですけど」
しやがんねぇって…と、思わず笑ってしまう。
「僕のピアノでもいいと言ってくれる人がいるならば…」
「謙虚な方ですねぇ……実はもうちらほらと高比良さんのコンサートの問い合わせの電話も来ているんです」
「え?…本当に…?」
何となく今まで微妙にあった距離感が縮まった気がする。
互いに会った事のある人と知り合いだったというのが距離を縮めてざっくばらんになってきて話しやすくなった気がする。いや、気じゃないはず。元々生方さんは人懐こい人だったけどさらに打ち解けた感じになった。
「その代わりに二階堂さんのコンサートのチケットお願いします」
「了解です~!あ、高比良さんのも怜と明羅くんにお渡ししますね」
「…………怖いのですが…」
「怖いのは分かります!…でも高比良さんなら大丈夫な気がします。うん!…って、俺はすみません…どうもクラシック聴くと寝ちゃうんですけど…怜にも呆れられてるのですが…そんなんでクラシックの企画担当って…申し訳ないのですけど」
生方さんが苦笑しながら正直に告げる事に凪は笑ってしまう。
「眠くなる位心地よく弾けるようにがんばりますね」
「…高比良さん…いい方ですねぇ…。怜と明羅くんには最低だと罵られるのに…」
泣き真似までする生方さんに笑ってしまう。初めて声をかけてもらったイベント企画社だったけど、声をかけてもらってよかった。
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